仮に車のガラスがすべてUVカット仕様でも完全に安心できない?
車のフロントガラスには基本的にUVカット性能があります。しかし、サイドやリアのガラスにも同等の性能があるかどうかは車種によって異なります。
すべてのガラスがUVカット仕様の車もあれば、フロントガラスだけがUVカットで、サイドやリアは通常ガラスのまま、というケースもあります。
一般的なガラスでも、太陽光に含まれる短波長の UVB(紫外線B波) はある程度カットされますが、長波長の UVA(紫外線A波) は透過してしまいます。
紫外線は短波長であるほどエネルギーが強い反面、透過性が低く、逆に長波長のUVAはエネルギーは弱めながらも透過率が高いため、ガラスを通り抜けて肌の奥深くに浸透します。これが 日焼け(日光皮膚炎)や光老化の原因 になります。
さらに、紫外線の定義は400 nmまでですが、そのすぐ隣の可視光領域、 420 nm付近までのHEV(高エネルギー可視光線) も透過性が高く、こちらも肌や目にダメージを与える要因とされています。
また、たとえ「全ガラスUVカット付き」と謳われる車であっても、実際には 300〜380 nmの紫外線のみをカット しているケースが多く、380〜420 nmのUVAやHEVはほぼ素通しということも珍しくありません。この場合、車内でも長時間過ごせば日焼けや光老化が進む可能性があります。
そこで今回は、実際に車内に透過するUV・HEVを分光器で測定してみました。
分光器とは
分光器(スペクトロメーター)は、光を波長ごとに分解して、その強さを測定できる装置です。
紫外線・可視光・赤外線といった光の成分を「スペクトル」として表示できるため、
- 紫外線や青色光がどれくらい含まれているか
- 特定の光源(LED、蛍光灯、太陽光など)の特徴はどうか
といったことを調べるのに役立ちます。
研究用途の本格的なものから、DIY向けの簡易型、PCやスマホでデータを表示できるUSB接続タイプまで、種類も幅広くあります。
紫外線対策アイテムの性能検証や、自由研究の実験にも活用できる便利な測定器です。
車内に透過する紫外線の実測
測定の前提
フロントガラスはそのまま、サイドとリアのガラスには UVカット99%のフィルム を貼った車で測定しました。
使用したのは、230〜450 nmの紫外線〜ブルーライト領域を測定できる HPCS330UV という割と本格的な分光器です。受光部をガラスに密着させ、スペクトル分布と紫外線強度を測定しました。
測定時の太陽光
この日の天気は快晴。2025年9月のお昼ごろに測定しました。車外の直射日光です。
紫外線はUVB帯の300 nm付近から強度が上がり始め、UVA帯ではさらに高い強度を示しました。
特にUVAの強度は 約4421 μW/cm² あり、盛夏ほどではないものの、9月でも十分に強力な紫外線が降り注いでいることがわかります。
(1 mW/cm²=1000 μW/cm²)
フロントガラス越し
直射日光と比べると紫外線は大幅にカットされていました。
しかし、390 nm以降のUVA〜HEVは透過 しており、UVAの強度は 約454 μW/cm²。短時間なら大きな問題はないかもしれませんが、長時間の運転で暴露すれば日焼けや目の疲れにつながる強度です。日々のダメージ蓄積を考えると、油断は禁物です。
サイドガラス(+UVカットフィルム)
UVカットフィルムを貼ったサイドガラスでは、フロントガラスよりも効率的に紫外線を遮断していました。
それでも 400 nm付近からはある程度透過 しており、UVA強度は 約159 μW/cm²。これは直射日光の差さない「昼間の日陰」程度のレベルですが、紫外線は完全にゼロではありません。HEVも透過するため、暴露が続ければ長期的には肌や目に影響を及ぼす可能性があります。
結論
今回の検証からわかったのは、たとえ全窓ガラスがUVカット仕様でも、380〜420 nmのUVAやHEVは透過する という点です。
つまり、車内だからといって完全に安全ではなく、年間を通して車に乗っているときも紫外線対策は必要 です。特に春〜秋の強い日差しの季節には、肌や目を守る工夫をした方が安心でしょう。
最後に
今回の測定からわかったように、車のガラスは紫外線をある程度カットしてくれるものの、UVAやHEVといった長波長側の光はかなりの割合で透過してしまいます。
フロントガラスやUVカットフィルム付きのサイドガラスでも完全には防げず、日常的に浴び続けることで光老化や肌ダメージにつながる可能性は十分にあります。
車内だからといって油断せず、日焼け止めの塗布、UVカット加工の衣類や小物の活用など、ちょっとした工夫を取り入れるだけでも安心感が大きく変わります。特に長時間運転する方や小さなお子さんを乗せる場合は、しっかりと対策を心がけたいところです。
紫外線は「見えないけれど確実に影響を与える光」です。屋外はもちろん、「車内=安全」という思い込みを見直すことが、光老化を防ぐ第一歩になるでしょう。